2012/01/25(水)「全てのM7以上の地震を3日前に予知できる方法」は役立つ地震予報の十分条件か?

こんな地震予知をする人、尾上氏(仮名)がいたとしよう。
尾上氏は、特定の地域、糖嬌(仮名)について、いつも「今年の五月三十五日にM7以上の地震が起きる」といったような具体的な地震情報を明らかにする。そして、過去10年意渡って、糖嬌で実際に起きたM7地震全てについて3日前にその予知を正確に述べていたという実績がある。そして、最終的に予報を外したことは1度もないという。
尾上氏のこの素晴らしい地震予知は、地震防災に役立つだろうか?
尾上氏の地震予知情報はこんな具合に明らかにされる。「今年の五月三十五日にM7以上の地震が起きる」の情報は四月の終わり、あるいはもっと前に、初めて示される。しかし、この予知は確定情報ではないのだ。

「五月三十五日にM7以上地震」の情報が明らかにされた後、五月三十五日が迫ってくるある日ある時、「五月三十五日にM7以上地震」は取り消される事がある。状況が変わったので、五月三十五日には地震は起こらなくなってしまったと。
それでも、五月三十五日の3日前、即ち五月三十二日の段階で尾上氏の地震予知情報がどうなっているかさえ確認すれば良いと考えるかもしれない。しかし、実は、尾上氏の地震予知システムでは3日前に予知は確定してない。どういうことか。
尾上氏は、五月三十四日になって「五月三十五日にM7以上地震」が取り消す事がある。それどころか、五月三十五日当日の24時寸前にだって取り消す事があるのだ。

五月三十五日に実際にM7以上地震が起こってしまった場合には、振り返ってその3日前、すなわち五月三十二日時点での予報がどうだったかを確認してみると、確かにいつも「M7以上地震があるとの予報」になっている。

尾上氏は、多数の地震発生予報を出す。それらの予報を並べてみると、ほぼ毎日地震が起こるかのような予報が出ているのだ。そしてそのほとんど全ての予報はその日が来る前に取り消される。
だからといって尾上氏の予報は、決してインチキだということではない。十分科学的で、そして予報として成り立っている意義有る情報なのだ。

地震が起こると予報しなかった日について、実際に地震は起きてない。地震が起こるとした日についても、早々に予報を取り消した場合にも、地震は起きてない。つまり、地震が起きないことについて、極めて的確に予報している。
ところで、尾上氏はこうした予報を出すに留まらなかった。

尾上氏は、「実際に起きたM7地震全てについて3日前にその予知を正確に述べていたという実績」を挙げながら、地震発生予想日の3日になると、必ず「住民を糖嬌から遠くはなれた場所に避難させななさい」と、自治体や住民にきわめて強く働きかける。

そうした働きかけを受けた当初は、尾上氏の勧告どおり、住民は避難した。が、地震予報は取り消され、そして地震は起こらない、という結果になった。何度か無駄に避難したところで、行政も住民も気付いた。尾上氏の予報と避難勧告は「狼少年」の一形態にしか過ぎないことを。
狼少年の「狼情報」は全てが嘘というわけではない。いつかは本当の情報のことがある。しかし、狼少年の「狼情報」を傾聴しても、それがいつ本当なのかは結局分らないのだ。有用な情報はそこにはない。それと同様、尾上氏の地震予想は科学的に正しいにもかかわらず、やはり有用ではない。
尾上氏の避難勧告は、単なる迷惑行為でしかない。住民達は、尾上氏に、地震予報と避難勧告を住民に向けて発信するのは止めて欲しいと強く申し入れた。

尾上氏は、科学的に正しい情報を発信しているにも関わらず、その情報発信を弾圧されたと怒っているそうだ。