2012/11/07(水)「研究」を一般人に伝える技術
を読んだ。プロフィールによればこのエントリの著者は研究者だとかで、なるほど研究者視点、あるいは技術者視点としては良いことを言っているとは思うが、それでも「この人全然分ってないな」の感は拭えない。
が、人の論評をうじうじ批判してるだけはつまらないので、元ネタの立命館大 スポーツ健康科学部の吉岡伸輔助教の筋力余裕度計を、科学技術に興味の無い一般人にどう伝えていけば良いか、その方針を検討してみたい。
一般の人が「研究」に対して示す、最もシンプルな興味の向け方は「それ、何の役に立つの?」という実応用についてだ。技術応用が想定されている研究ならば、その視点で研究成果をとりあげるのが最も伝えやすい。
研究を「技術応用」の方向から記述することについて、実はその専門分野がある。特許だ。だから、研究成果についてどのような特許がとれるかという方向性で理解を進めると、文章化の時に既に頭の中で整理された状態になっている。もちろん特許願書を書くのではないから、「請求の範囲」の枠組みに押し込めようとする必要はない。
立命館大学は、産学連携や研究の産業応用について熱心で、その専任スタッフも充実してる。だから、筋力余裕度計の話も、「立命館大、しゃがみ姿勢から立つだけで「筋力余裕度」を測れる測定器を開発」の記事( http://news.mynavi.jp/news/2012/08/07/131/index.html )を見る限り、産学連携部門のスタッフの助言からか、あるいは応用を常に考える学風として根付いているからか、技術応用を念頭に置いた方向にある程度話が整理されて説明された形跡が見て取れる。この「整理されたところ」を骨格として捉えればよい。
この研究成果の話がなされた時に、先生がどんなに専門分野について難しいことをとうとうと喋って脱線していたとしても、話の骨格さえはずしていなければ、何ら難しいところはないはずだ。
重要な点は2点。
1.制限少なく、正確な筋能力を測れること。
「制限少なく」とは、被測定者の能力や状態によらず、被測定者に傷や大きな負荷を与えることなく、短い測定時間で、小さくシンプルで耐久性のある安価なデバイスで測れるということ。
「筋能力」とは、測定した時に筋肉が出力する「力の大きさ」ではなく、筋肉がどんな力を出す「能力があるか」のこと。
2.筋能力の評価指標として、利便性の高い「筋力余裕度」を採用したこと
能力の評価方法には色々選択肢が考えられ、例えば「力の単位」を持つ絶対値を使う方法もあれば、年齢、性別別の筋力分布に対する平均値や偏差値などを使う方法もありうる。
しかし、この研究成果では、介護の要/不要の境目になる筋能力を100%として、介護が必要になるまでに「どれだけ余裕のある筋能力か」という指標を用いている。
筋能力を正確に測りたいニーズとして、「要介護状態の切迫度を知りたい」というものが最も大きいだろうという判断があったのだろう。だから応用の方向をそこに見定めて「筋力余裕度」という指標を採り、測定計の名前にまでそれを採用して応用可能性の高さをアピールしている。
この2点さえ外さなければ、研究者側から見て最も伝えたいアピールポイント部分を捉え、読者側から最も興味持てるような表現で伝えることができるはずだ。
「(難しい)研究」を、一般人に「わかりやすく」伝える,科学報道に大事なこととは、こういう作業ではないだろうか。